映画「勝手にふるえてろ」感想 -本当はこんな風に怒ってみたかった-

友達に誘われて観に行った「勝手にふるえてろ」。
昨年末に観てから、今もなお映画にまつわるいろんなことを考えてしまっている。以下、感想ネタバレです。ご注意ください。

 

f:id:mkkm1229:20180118122535j:plain

 

映画を終わった瞬間、私は興奮で震えていた。そして、近くの席の女の子たちが口々に「松岡茉優かわいかったねー」と話しているのを見て、「ちーがーうーだーろー!!!」と叫びかけた。いや、確かに松岡茉優はむっちゃくちゃ可愛かった!!!映画やドラマを見て初めて「この人と同じ服を着たい」と本気で思ったくらい。(今も細々と探してます。ご存知の方いれば教えてください。)

でもそれよりも、心の奥底でふるえて止まらない感情が、小刻みに指の先まで到達していた。エンドロールを観終わるやいなや「今すぐカフェでこの映画の話をしよう」と隣の友人を誘い、散々感想を話し合った。それでも気持ちが止まらなくて、最終的にカラオケに行った。なんだか大きな声を出したくてたまらなかったのだ。私はJUDY AND MARYを歌いまくっていたが、rage against the machineを歌えたら、もっとよかったな。空耳アワー等の小ネタも抜群でした。

「脳内の彼か、現実の彼か」。
ヨシカの10年間の片想いにはバチバチに共感し、個人的すぎてネットでは晒せないようなたくさんのエピソードが脳内を駆け巡った。けれど、私が一番共感したのは、物語の後半、ヨシカ(松岡茉優)と二(渡辺大知)がうまくいってほしいという想いで、来留美石橋杏奈)が、二にヨシカが処女であるという秘密をばらしたことがばれてしまうシーンだ。

たった一人の友達、来留美が他の人に秘密をばらしたことも腹が立つ。でもこの怒りは、そんな単純なことじゃない。ヨシカが怒っているのは、大切な友達に「処女であるという最大の秘密が、心配してアドバイスとして二に伝えなくちゃいけないと思う程、恥ずかしいこと」だと思われたことだ。

一緒に観た友人は「響く人と、全く響かない人に別れて、まるでリトマス試験紙みたいな映画みたいだよね。」と言っていた。この作品には、いくつもウワァ…と胃の中に石が放り込まれているような気分になるシーンがあったけれど、私の心のリトマス試験紙が真っ赤に染まりきったのは、このシーン。

自信なさげな人生を送ってきた人なら、この「お前も本当は笑ってるんじゃないのか」というドロドロにヌメりまくったどす黒い気持ちに身に覚えがあるのではないだろうか。来留美の空気の読めない優しさは、「きっとヨシカとは違った明るいところで生きてきた人間なのだろうな」と感じさせる点でもあった。

悲しいことに、ヨシカ級のこの面倒臭さが自分にもある。
実際に、昨年、私が内心とても気にしていることに関して、母親が外で来留美のような気遣いをしているのを友人から聞き、笑い話だと思って話してきた友人がびっくりするくらいファミレスで泣いてしまった。

詳細は割愛するが、笑って済むようなことなのに、「母親も私のことかわいそうって思ってたんだ」と私は受け取ってしまった。それがあまりに卑屈な脳内変換をしていることは、痛いほどわかっていたんだけど…。情けないと同時に笑い話だと思って話してくれた友人を傷つけたくなくて、「ごめん、就活が忙しくて疲れてたみたい」と、全く脈絡のない理由をこじつけてその場を乗り切った。最低限フォローをしたことは正しかったと本気で思うけれど、友人には、悪いことをしたなあと今でも後悔している。

でも、普通はこうやって「泣いちゃダメ」と無理やり沈下させるであろうこの情けない怒りを、ヨシカはおもいっきり声に出して、爆発させるのだ。
「えっ、まじでほんとに言っちゃうの?」という後半のヨシカのスピード感、変な汗がでつつも、爽快感がすごい!

処女であることを笑われるのであれば、「妊娠したので産休ください。」と真逆の嘘をつき、無理やり産休届を提出。「昨日からどんどん出てきちゃうんだよね、心の声が」と、オフィスで本音を叫ぶ。自分には絶対に勇気が足りずにできない超あてつけ自己満の復讐劇を、ヨシカがぜーんぶ映画の中でやりきっていたのだ。

松岡茉優が「現実では叫べないことも、映画なので全部ヨシカが叫んでくれます。辛くなったときに見ると元気が出ると思う」というようなことを舞台挨拶で実際に言っていたらしい。とっても嬉しい。私にとっては、まさにそういう映画だ。

このヨシカ爆発!のシーンのくだりは、早口のセリフも秀逸で、二回目に観に行ったときはたくさんの男性客が笑っていた。カバンを叩いて笑っている人すらいた。でも、そんなに面白いかな。面白いけど、私にはもっと真に迫るものがあり、ヨシカの怒りが体にビシビシ伝わってきて、笑うことなんかできなかった。女性客の笑い声が全く聞こえなかったのが印象的だった。

人生で何度も遭遇したすっごく悔しい瞬間の選択で、自分が選ばなかった方の未来を選択したのがヨシカ。TPO全く無視して会社でいい散らかすヨシカを、オーディエンスとして一番気持ちのよい距離感で見守ることができたな、と思う。

それと同時に、やっぱりヨシカみたいなやり方は良くないし、曲解なんかせずまっすぐ素直に言葉を受け止めていきたいなと、改めて思う。でもでも、それでもやっぱり傷ついてしまったとき、ヨシカが代わりに爆発してくれるという、ある意味、私にとってお守りのような映画になった。「一歩間違ってたら完全にこうなってた」というパラレルワールドのような話なんだなあ。

反面教師であり、オタク女子が最も共感できるヒロイン、ヨシカ。
窒息死しそうな「わかる~」も、斧でぶった切るような「ッシャー!」という爽快感も兼ねそろえた、最高のヒロイン。二と今後幸せになれることを祈るばかりだ!
そして渡辺大知くん、演技が良すぎて、おもいっきりファンになってしまった。私は銀杏ボーイズが大好きで、昔映画の色即ぜねれいしょんのエキストラ出演したことがあるのだけれど、そのとき実際に観た初々しい演技とは違った良さがあって、こんな大化けするなんて思ってもみなかった…。

どうかこれから、二のまっすぐな愛を受けて、ヨシカは卑屈の皮を脱いで歩いていってくれ!その方が、きっとかわいい。私だってヨシカに負けないぞ!かわいくなりたい!

小ネタだけど、ドラマのコウノドリの役柄では師弟関係の厳しかった古舘寛治松岡茉優が釣り人とOLに扮しており、楽しくてかわいい掛け合いが最高でした。ミラクルなキャスティング!