広島カープが変えてくれたこと

2016年夏、我が家は約10年ぶりに家族旅行に行った。
はっきり言って、奇跡のようなことだ。家族旅行なんて、疲れるだけで行こうとすら思わなかった。
少し前までは、家族団らんの中心になるはずのリビングの存在にプレッシャーを感じる程、自分の部屋にいる時間が長かったけれど、今は野球の試合のある日の半分くらいは、大きなテレビのあるリビングに全員が揃う。そして、たとえ最初から最後まで見た試合でも、みんなで報道ステーションの熱盛を見てから寝る。応援しているチームがハイライトで紹介されるのはとても嬉しい。youtubeで見るのとは、なんか違うのだ。

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■家族が家族らしくなったきっかけは、広島カープだった。

父は40年以上、弟は友人の影響でここ5年程カープファンである。私はインドア派のオタクなのでスポーツはするのも観るのも大大大ッッ嫌いだったが、つば九郎が見たくて行った2016年6月5日(日)オリックスVSヤクルトの交流戦で、先入観がすべて打ち砕かれた。小学生の頃散々プレイしたパワプロサクセスモードを思い出す神宮球場の風景に、ぴりぴりと体が震える程感動した。小さいと言われがちだが、私にとってほとんど初めての野球場は、とてもとても大きく見えた。

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試合は、7回表の時点で13-1。どうあがいても巻き返せないであろう状況だったが、ヤクルトは7回裏の攻撃で4点を入れ、そして9回裏には山田哲人が3ランHRを放った。一緒に観ていた恋人は、「負け試合だけど、野球として見てて面白いよね」と言っていた。なるほど、負けているにも関わらずワクワクするこの気持ちはそういうことなのかと、とても腑に落ちた。

目の前では、派手なつけまつ毛をしたギャルが黄緑色のユニフォームを着て、携帯で応援歌を確認しながら「ワッショイワッショイ」と一生懸命一人で歌っていた。ギャルと野球というギャップが新鮮で、それすらも楽しかった。
全身ヤクルトグッズなのに、横のヤクルトファンの女性と話すときだけ顔を上げて、あとは携帯を見ている男の人もいた。野球場は、想像以上にいろんな人やドラマのある場所だなと思った。

結果は14-9での敗北。負けたけど、一生懸命追い上げようとするヤクルト打線を見ていたら、胸が熱くなって、自然と選手の名前も覚えてしまった。つば九郎はもちろん、かわいい傘の応援パフォーマンスと、山田哲人のホームランが見れて、とても嬉しかった。私は全く野球に興味がなかったので、山田哲人の存在自体、この日知ったのだが。その日は二回も乱闘騒ぎが起こっていて、弟にLINEしたら「そんなことあんまりないよ」と笑われた。

野球のルールはあんまりわかっていないけれど、それでも一生の思い出になるくらい、楽しかった。私はこの日のことをきっと忘れない。
このままヤクルトファンになってもよかったけど、せっかく家族がカープファンなので、家族と一緒にカープを応援することにした。

■あっという間に決まった家族での観戦計画

帰宅後、どれほど野球観戦が楽しかったか家族に散々話して、思いついたように甲子園に試合を見に行きたいと言ったら、すぐに話が進み、父と弟と三人で見に行くことになった。父がとても喜んで、そのままネットで私の分のユニフォーム(しかもハイクオリティ)を注文してくれた。私は選手のことを全く知らないので誰のユニフォームを買うかは父と弟に任せた。二人は相談の末、背番号12、九里のユニフォームをポチっていた。

九里は昨年、今年ほど活躍していなかったので、今思えばなんでフォアボールも知らない娘の1枚目が九里なんだよという感じだが、父と弟はかなり天邪鬼なところがあり、それゆえ関西在住でありながらタイガースファンではない。そして、今本調子ではない選手や将来性のある選手を応援したいという気持ちが強いらしい。弟は「菊丸新井は好きだがユニフォームは買わない」と決めており、ユニフォームはいまだに背番号20だ。弟は彼がまた活躍することを本気で願っている。そういう訳で、私は父と弟が応援している九里のユニフォームを着ることになった。

■遂に初の家族での野球観戦。そこで目にしたものは…。

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念願の甲子園球場へ応援に行った。弟は何度もカープの応援に行っているので、弟についていくような形になった。いざ試合が始まると、父と私は、家では見たことのない弟の「ルナーーーー!!!」というエクトル・ルナへの大きな声援に完全に面食らってしまった。父はあまりに驚いて、チワワのような大きな目を普段以上にぱちくりさせて、「なんや今の、すごない?」とでも言うように、何度も意味ありげに私の顔を見た。弟は家族のそんな様子にすら気付かない。

「同じ屋根の下で暮らしているのに、家族の家の外での様子を何も知らないんだな」と、普段は口数の少ない弟の大きな叫び声を聞きながら思った。新井も誠也も活躍していたけれど、一息で威勢良く叫べる弟の「ルナーーーー!!!」が一番迫力があった。私もどんどん愉快になってきて、見様見真似で応援した。応援歌はわからないけれど、選手の名前は叫べる。一緒に楽しんでいることが、弟にも伝わればいいと思った。

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試合には勝ったし、とても楽しかったけど、それよりも父のまんまるの目が一番印象に残った。なんとなく、「行ってよかったな」と思った。甲子園球場前でユニフォームを着て三人で撮ってもらった写真を見た母は「お父さん、ずっとカープ好きやったもんね、よかったね」と何度も嬉しそうにつぶやいた。そういえば、「お父さんも一緒に行こうよ」なんてお誘いをしたのは、一体いつぶりだっただろうか。

私たちのとは違う、父の赤い縦縞のユニフォームは、写真の中で一家の大黒柱の威厳を放っていた。

■選手の活躍に、自分のことのように涙を流した

2016年クライマックスシリーズの頃、私は仕事や人間関係のストレスで体調を本格的に崩し始め、生活のすべてがギリギリの状態になる。毎日涙が出るほど苦しかったが、誰とも連絡を取りたくなくてSNSを利用しなくなった代わりに、カープまとめサイトを見ることが日課となり、それが唯一の心の支えとなった。応援している選手達の活躍に本当に心が癒されたのだ。

彼らの活躍を見るたび胸がギューッとして、嬉しくってついでに涙までポタポタと搾り取られていく。私は感受性が強い方なので、ちょっとグッとくる泣きメロの曲展開やアーティストの復活などには人一倍胸を打たれてしまうけれど、そんな機会自体、いつもは月に1回もあるかどうか。でも、野球は1試合1試合にドラマが存在しているから、胸がギューッとするタイミングが2、3日に1回はある。誰かのために一生懸命応援する気持ちがどれだけ前向きで健康的で幸せなことなのか、元気になっていくたびにひしひしと感じた。私は今でも、やりきれない気持ちのときは、カープが昨年リーグ優勝したときの黒田と新井が抱き合っている動画を見る。

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「新井と黒田が抱き合って…それをみんなが笑顔で囲んでいます」この実況と実際のシーンのなんと素晴らしいことか。ラジオで聞いていてもその姿を想像して号泣しただろう。緒方監督が泣いている黒田と新井を指さして、それを囲む選手たちが本当にうれしそうに笑っていた。そこには例えようもないような、あたたかさが溢れていた。

家族でも恋人でも友達でもない、自分以外の誰かの活躍で胸がいっぱいになる経験を、野球は教えてくれた。アイドルを好きな人の気持ちも、ちょっと分かった気がする。突然ブレイクするのではない、みんな根底には努力があり、不遇な時代を乗り越えて活躍していくのだ。私も頑張らなくてはと、思う。

■私利私欲にまみれた広島旅行での、親孝行

2017年、開幕したら、家族でマツダスタジアムに行こうと話が進み始めた。そのことを年上のカープファンに話すと「お父さんは嬉しいやろうね。だってずっと好きだったんでしょ、カープ。それを子供が好きになって、一緒に広島まで観に行けるだなんて…。ほんまの親孝行やと思うよ。」真剣にそう言って、チケットを取るのを手伝ってくれた。おかげで無事にマツダスタジアムの指定席4枚を手に入れることができた。

正直、この反応は想定外だった。私が家族で広島に行く理由の9.9割が「タダでズムスタで試合が見れるぜ!!ヤッホー」という超私利私欲にまみれた理由だったので、こんなに感慨深い言い方をされて、初めて「確かに親孝行のチャンスなのかも」と考えるようになった。

「父の運転でタダで連れてってもらう訳だから、何かしてあげようか?」と弟に相談したら「新しいユニフォームを買ってあげようよ」とナイスアイデアをいただいた。カープファンというほどでもない母には、一緒に応援できるようにかわいい応援スティックをプレゼントすることにした。

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旅行の少し前に、ちゃんとラッピングして、父が好きな福井のユニフォームをあげた。あんまり顔に出さなかったけど、結構喜んでいたんじゃないかと思う。父は人当たりはいいが、友達が少ないので、こういう時どういう反応をすればよいのかわからないのを、家族はよく知っている。

そして広島旅行当日。

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しかしまあ、マツダスタジアムに行って痛感した。家族旅行はボランティア精神がないと成り立たない!!!元々たいして仲の良い家族ではなかったことを一気に思い出す羽目になり、愕然とした。

遠慮なくすぐに文句言う母(弁当にも文句つけられそうだったから、買った弁当の中で一番美味しそうな丸佳浩弁当をあげた)、要領が悪くチンタラしているせいで試合に間に合いそうにない父…。弟と二人でコンコースを歩きながら、大きなため息がでた。「家族旅行はマジで疲れる。タダで試合を見れる分、我慢が必要な点が多すぎるよな。」と愚痴ったら、弟が大きく縦に首を振った。「わかる。ありがたいけど、まじでイライラするよな…」と。

こういうとき、弟がいてよかったなと心底思う。弟と家族の話をする度に、運命共同体というか、ああこの世に一人しかいないきょうだいなんだなあと思う。父と母のもと、その家族の渦の中で育った子供は、その空気の一つ一つがわかるのは、この世に私と弟しかいないのだ。

それでも、弟はマツダスタジアムの誰もが楽しめる自由な設計にキャーキャーと感動している母に声をかけ、試合中にわざわざコンコースを案内していた。父にも母にも文句を言いたい場面はたくさんあったが、私も弟もぐっと堪えた。二人にも楽しんでほしかったのだ。

対戦相手のヤクルト打線はいまいち振るわず、勝利したとはいえ試合としては特別面白いものでもなかった。けれど、マツダスタジアムにいるだけで夢が叶ったような気持ちになれたし、「試合でない部分にイラッとする後味」は私たち姉弟に妙な満足感と結束力を生んだ。

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弟とは、その日の夜、酒を片手にホテル近くの広島の街を散歩して歩いた。弟とそんなことをするのも、初めてのことだった。
私たちにとっては親孝行、父母にとっては、子供を喜ばせるための旅行という目的が果たせただろうと思う。マツダスタジアムの鯉の壁面画の前で、母にもユニフォームを着せて真っ赤な四人の家族写真を撮った。

翌日は原爆資料館平和公園を観光した。正直この一泊二日はかなりクタクタになったが、いい思い出になった。家族でここに来た意味は、確実にあったと思う。

■遂にカープ2連覇、胴上げの瞬間に立ち会う

M2になったあたりから一家にはソワソワする空気があったが、私が個人的に9/18甲子園のチケットを取っていたので、「まあマツダで決まるだろうけど、もし負けた時胴上げ見れるかな…」と余裕を持って応援していた。
が、本当にマツダで優勝が決まらないという展開に…。

んなアホな!これはもう甲子園で決めるっきゃないっしょ!!!

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という訳で、家族を置いて友人と意気込んで甲子園に行った訳だが、本当にリーグ優勝の瞬間に立ち会えてしまった!!!!

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ファン歴2年にも満たない小童がこんな貴重な体験をできて良いのか、申し訳ないなという気持ちもありながら、とてもとても、嬉しかった。緒方監督のインタビューは、選手への愛に溢れていて、涙が出た。同時に、今シーズン一生懸命応援してよかったなあとか、家族の形がどんどん変わっていったときのことが胸に頭に浮かんで、たまらなくなった。

試合中印象的だったのが、近くにいた熱狂的なカープファンのおじさん(かなり頑固そう)が、安部にくらわされた死球にブチ切れてかなりヒートアップしていたとき、周りの知らないお兄さんたちに「お父さん、みんな怒っとるけえのう!だから落ち着いて!」と笑顔でなだめられていて、怒り狂っていたおじさんが、困ったように笑顔を見せながらヒートダウンしていたこと。現地観戦ならではの、とても良い光景だなと思った。
阪神が負けているとカンカンに怒り機嫌を損ねていた大の虎党の生前の祖父を思い出しながら、おじさんが可愛らしく見えた。

そして優勝が決まった後、さっきの頑固なおじさんを見ると、膝に手をついて泣いていた。おじさんのユニフォームは、よく見ると裾の部分がかなりほつれている。何度も何度もこのユニフォームを着て、応援してきたんだろうなと思うと、胸が熱くなった。おじさん、よかったね。今日、ここで胴上げが見れて。

球場を出ていろんな人とハイタッチをして、そのまま梅田で祝賀会をした。いつもはそんなことしないけど、今日くらい、ユニフォームを着て街を歩いてもいいだろうと思ったし、どうしても、今日はユニフォームを脱ぎたくなかった。魔法がとけてしまう気がして。

実際に、その日の夜は、魔法がかかったのかと思うくらい、ものすごい非日常が待っていた。

梅田ではいろんな人に声をかけられた。カープファンのおじいさんが小走りで寄ってきて「今日勝ったの!?嬉しいねえ!」と試合結果を満面の笑みで聞きにきてくれた。阪神ファンのお兄ちゃんたちも「おめでとうございます!」と声をかけてくれて、「CSでまた!」と挨拶した。街中ですれ違う赤ユニフォームの人たちとは、すれ違いざまに毎回ハイタッチした。

一番嬉しかったのが、二軒目でたまたま入った焼き肉屋で、頼んでもいない特上カルビが運ばれてきて目を丸くしていると「おめでとうございます!サービスです!」と店長が笑顔で祝ってくれたこと。店長は巨人ファンらしいが「いいことがあったら祝うべきでしょう!」とニコニコしていて、大阪の街は本当にあたたかいなと、少し目の前が滲んで見えた。その店で一番高価な特上カルビは、とても美味しかった。

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夢みたいな夜だった。本当に。
優勝の瞬間ももちろん嬉しかった。でも、それ以上に、その夜の優勝を実感する出来事のすべてが本当に印象的で、今まで感じたことのない気持ちにさせてくれた。

赤いユニフォームの人たちが、無言で歩いているだけでマリオのスター状態になっている…といえば近いかもしれない。でも、ここは阪神タイガースの街だ。私たちを見て悔しい気持ちになった人も絶対にいるだろう。そういうよそ者の自覚もあるからこそ、一緒に喜んだり声をかけてくれるこの街の雰囲気に、ありがたさとあたたかさを感じた。

そんなことを考えながらウルウルしていると「まあ、ここは大きな街だからね」と言われた。本当にそれだけが理由だろうか。大阪の持つ特別陽気な優しさだと、私は思う。

■野球が変えてくれたこ

野球が好きになってから、確実に私を取り巻く世界は変わった。

・家族が仲良くなった
・友達が増えた
・以前より少し素直になった

主にこの三つの変化が大きい。

特にカープ女子という言葉はとてもありがたかった。居酒屋であろうが面接であろうが、あまりにブームになりすぎて、どこに行っても「あのカープ女子」と覚えられる。

もちろん「はは、カープ女子(笑)どうせ菊池が好きなんでしょ」と鼻で笑われることもある。タイミングもちょうど流行語になってからだし、ほとんど今の選手しか知らないにわかだ。野球の知識やルールもいまだに完璧ではない。(それでもキムショーの件など過去のカープに関する事件やコーチまで積極的に覚えているので、随分熱心な方だと思う。ここに関しては根っからのオタクパワーが強い)

でも鼻で笑われる存在なら、わからないことも「初心者だから教えて」と言えるし、それで嫌な顔をされたことはない。相手はおっちゃんなことが多いので、むしろ喜ばれる。野球のルールもいまだに完璧ではないけれど、おかげで何に関しても、前よりかは素直に「教えて」と言えるようになったと思う。

そして、カープファンになってから、友達が増えた。野球の話ができるだけで、友達作りの手段が一つ増えるなんて、思ってもいなかった。すごい!!こんなコミュニケーションツールになるなんて、本当にびっくりした。

初対面でも野球の話は男ならだいたい誰にでも通じる。よって、カープが優勝した瞬間は、この一年で増えた男友達(おっちゃん含む)数人から「モテキの一話かよ」とツッコミたくなるくらい一斉にLINEがきて笑ってしまった。

カープ以外にも、野球そのものが好きなので、いろんな選手を覚えたい。だから他球団ファンの話を聞くのは楽しいし、球宴WBCも好きだ。今年の球宴の日は「ノー残業デー」にして、家族が一斉に家に帰った。どこぞの昭和の家だよ、と突っ込みたくなるが、西友でたくさんおつまみを買って一目散に帰ってきた。

ここまでやっといてなんだが、正直球宴ってそんなに面白くないなと思ったけど、選手が普段見せない表情をしていて、なんかワクワクして楽しかった。ベンチで表情豊かな丸がかわいかった。

ということで、やっぱり一番大きな変化は家族だなあ。

たまに弟に野球のルールや用語について聞くと「そんなことも知らないのか」と呆れ顔をされるが、「仕方ないな」と言って、嬉しそうに図を描いて教えてくれる。そういえば、弟は最近私に「いい音楽教えて」と聞いてくるようになった。もしかしたら、こういうコミュニケーションが影響しているのかもしれない。

父はネット音痴なはずなのに、新聞のスポーツ欄を見まくっているせいで、家族の誰よりもカープの最新情報に詳しい。父に対しては、何かにつけて「勘弁してくれ」と思うこともしょっちゅうだが、そういうところは憎めない。趣味が少なく、友達もいない父の休みの過ごし方が野球中継に変わったのも良い変化だと思う。去年まで私は「話すこととかないし」くらいの態度をとっていたのに、驚くほど家族間の会話は増えた。CS放送への入会はおつりがでるほどの価値があった。

母は私たちほど興味がない上、カープが先制点を取られると「今日もあかんやん、負けるわ」と鬱陶しい発言が目立つが(だいたい逆転するのでそれ見たことかと思う)、CS放送への入会にも積極的で、グッズを見かければ買ってきてくれる。母は、父がずっと好きだったものに娘と息子が集い、仲良くしているのがきっと嬉しいのだと思う。安部ちゃんのことはなぜか「安部さんって人」と毎回呼ぶのでウケる。

なんだか、それぞれが外へ外へ向かっていた家族が、キュッとスリムになった感じがする。コップの中、表面張力で保つ水のように、内へ内へ。私も弟も、楽しいことがすべて家族の外にあったのだ。それはどの家庭でもそうだと思う。でも、今は家にも楽しいことがある。

「今日はこれから家にいないの?14時から試合観ようよ」
そんな風に、部屋のドアをノックされる。

家族仲が今までとは比べ物にならないほど、随分良くなった。

日本シリーズがもし決まれば、家族で広島まで観に行こうという話になっている。そうなればいい。CSはハラハラドキドキだが、どうか進出できますように…。

■最後に

長く長くなってしまったけれど、どうしても野球漬けの1年半のことを書き残しておきたかった。それこそ、「カープ女子」という流行り言葉に、一言では決して表せない、胸が詰まるようないっぱいいっぱいの私の気持ちがかき消されてしまうのが、嫌だった。

私はカープというよりも、野球そのものに、心から感謝している。それも、頭が上がらないくらい。野球がどれだけ自分自身や周りの環境を良い方に変えてくれただろうかと思うと、本当にきりがない。

今回は家族仲に主にスポットを当てているが、去年、体を壊すほど精神的に参っていたとき、選手の活躍が心から自分を支えてくれたあのときから、野球の存在は一層特別になった。毎日苦しくて泣いてばっかりでも、悲しい涙とは別の、熱を持った涙も流すことができたのだ。それがどんなに自分にとって救いだったか、忘れることが私にはどうしてもできない。野球は、一筋の光だった。

野球が面白いから、毎日がより楽しい。

音楽も漫画も大好きだけれど、今一番楽しいのは、野球。来年は働く環境が変えられたらなあと思うから、今年は休みの取りやすい会社にいる内にと、一生懸命試合を観に行った。おかげでとっても楽しかった。

CSも日本シリーズも楽しみだけれど、「やっと来た!」と思っていた野球の季節の終わりが近づくのがとても寂しい。だから、本格的に寒くなってしまう前に、次はアメフトを観てみたい。大嫌いだったはずのスポーツ観戦はとても楽しい、好奇心は尽きない。

つば九郎が見たくて行ったはずのヤクルト戦の着地点がこんなところだったなんて、想像もつかなかった。
人付き合いから何まで、とてもいい形に変えてくれた野球に感謝しながら、残りのシーズンをめいっぱい楽しもうと思う。絶対勝つぞ!カープ

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